「頭ガチガチの理系男子が、覚醒して宇宙の真理を悟り、ヒーラーになった話」
第十二話 そのままで完璧

【前回までのあらすじ】
覚醒の静かな深まりとともに、世界との向き合い方が変わっていった僕。
同じ日常を生きながらも、体験の質が大きく変化していることを感じていました。
そんな中で、さらに深い気づきが、思いもよらない瞬間に訪れます。
【そのままで完璧】
生後2か月、病院でベッドに横たわる息子と面会。
生まれたときには3kg以上あった体重は、徐々に減っていき、このときには1.9kgまで落ちていました。
やせ細った身体。
小さな胸。
頼りなく見える手足。
ここで、いつまでも「息子」と呼ぶのも、変なので以後「ひーくん」と呼ぶことにしますね。
そのひーくんを見つめていた、そのときです。
自分の中から、これまでとはまったく違う感覚が、胸辺りから頭に突然、浮かび上がってきました。
それは、まるで金づちで頭を殴られたような衝撃でした。
唖然として思考が止まり、言葉がまったく思いつきません。
何が起きたのかも分からず、しばらく呆然としていました。
その衝撃は、少しずつ、じわーっと身体になじんでいき、ようやく、ひとつの言葉が頭に浮かんできました。
「そのままで完璧」
その言葉を受け取った瞬間、胸の奥から一気に感情があふれ出しました。
涙が止まりませんでした。
これまで、僕はひーくんに、なんてひどいことをしてきたんだろう。
そう思いました。
なぜなら、それまでの僕はひーくんに会うたびに、こんなことばかり考えていました。
こんな難病を患って、かわいそうだ。
この病気さえなければ。
どうして、うちのひーくんに限って。
面会の時間は、いつも後悔と悲劇の想像でいっぱいでした。
僕は、ひーくんとの貴重な時間を、自分の頭の中で作り上げた「悲劇」で埋め尽くしていたのです。
でも、あの瞬間、それが間違いだったことに気づきました。
そのとき、何も悲劇は起きていませんでした。
悲劇を演じていたのは、他でもない、僕自身でした。
ただ、その状態が在るだけ。
そこに意味を与えるのは、いつも自分だったのです。
ひーくんと面会しているその時間、状態が悪化しているわけでもなく、命が逼迫しているわけでもありません。
ただ、親子が一緒にいるだけでした。
それだけの時間を、僕は勝手に悲しいものにしていたのです。
そのことに気づいたとき、胸の奥が、ぎゅっと締め付けられました。
ただ、親子の時間を楽しく過ごすだけでよかった。
なぜ、そんな当たり前のことに、今まで気づかなかったんだろう。
その瞬間、そこにはもう、かわいそうで絶望的なひーくんはいませんでした。
やせていても、時折見せてくれる赤ちゃんらしい仕草。
こちらを何かを訴えるように見つめてくる目。
そのすべてが、愛らしく完璧で、幸せの塊のように見えました。
初めて、病気さえも、それも含めて、ひーくんの個性なのだと思えました。
この子は、なんてすばらしいものを僕に与えてくれていたんだろう。
今まで気づかなくて、本当にごめんね。
そう心の中で何度も謝りました。
もう涙が止まりません。
その瞬間、これまで何もないと思っていた世界が、すべてが満ち足りている世界へと、静かに反転していきました。
それからというもの、不思議な変化が起こり始めました。
ひーくんの体重が、少しずつ増え始めたのです。
一時は1.8kgまで落ちた体重も、その後3か月かけて、5kgまで徐々に増えていきました。
身体は赤ちゃんらしく、まん丸になり、顔つきもどんどん柔らかくなっていきました。
こちらを見て、笑ってくれることも増えました。
本当に、天使のようでした。
ひーくんは、心臓病の子にはよくあるそうなのですが、とても汗っかきでした。
鼻につながれた酸素チューブをとても嫌がっていて、隙あらば外そうとして、じたばたしていました。
そのため、両手には小さな靴下がかぶせられていて、その姿が、なんとも愛くるしかったのです。
僕は、ひーくんを寝かしつけるのが得意でした。
身体を少し横にして、背中をやさしくさすってあげると、とても気持ちよさそうにして、すやすやと眠ってしまいます。
その寝顔が、可愛くて、可愛くて、たまりませんでした。
あのとき、確かに思いました。
そのままで完璧。
それは、ひーくんが僕に与えてくれたかけがえのないメッセージでした。
この瞬間、世界がひっくり返ったように変わったのですから。
【次回予告】
穏やかな日々の中で、少しずつ体力を取り戻していくひーくん。
しかし、ついに避けては通れない話題が、僕たちの前に現れます。
次回、手術という現実。
命と向き合う、大きな選択のときが訪れます。


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